キャロル・マールス・ディーンハイムと魔法少女

シンフォギアのキャロルって、魔法少女まどか☆マギカにおける魔法少女とそっくりなんじゃないか、と唐突に思いつきました。

一応おさらいします。魔法少女という存在は、一般的には(というかまどまぎ以前では)夢と希望に満ちあふれており平和のために悪と日々戦う存在でしたが、まどか☆マギカは魔女という災いをもたらす敵の概念を導入した後、字面からの類推をそのまま適用して、魔法少女とはいずれ魔女になるものであり、災厄をもたらす存在の前段階の姿であるというように定義を変えてしまいました。この世界では、魔法少女キュウべえというマスコットと契約することで、自分ではどうにもならない奇跡をひとつ実現することができます。その対価として、魔法少女は世界を魔女の手から守るため、日々戦わなくてはならないという宿命を背負います。ところが雪音クリスさんが言うように世界は残酷なので、魔法少女が大事にしていた、奇跡を起こしてまでも守りたかったものを、いずれは奪い去ってしまいます。そして自分の守っていたはずの世界に裏切られ、絶望の淵に立った魔法少女は魔女へと変化して世界を呪い、今度は世界を破壊し始めます。

世界という言葉をざっくりと使いすぎですね。たぶん、魔法少女たちが思い描く自分の影響が届く範囲という意味の世界と、キュウべえが見ている世界と、人類全体でなんとなく共有されている(ことになっている)イメージとしての世界を区別して話すべきだと思うのですが、そういうのは誰か他の人がやってると思うので適宜文献を参照してください。

閑話休題

キャロルは最初、父である錬金術師のイザークを慕う、普通の少女でした。イザーク錬金術を応用して人々の病気を治したことを「奇跡」と呼んだのは別に彼女らではないですが、その「奇跡」と呼ばれるものを正しい力、人のためになる力だと考え、信じていたことは疑いようがないでしょう。しかし、当のイザークはまさにその「奇跡」を理由として魔女狩りの犠牲となり、キャロルを残して火あぶりにされてしまいます。つまりキャロルは信じていた「奇跡」に裏切られたのです。

更に、知っての通り、キャロルは自らを裏切った世界への復讐として、世界を破壊することを目標に活動を始めました。これは世界に奇跡と平和をもたらしていた魔法少女が世界に絶望し、魔女と化して世界に災厄をもたらすという構造そのものです。

シンフォギアGXでは、Webサイト公開当初からキービジュアルに「勃発-魔法少女事変」というアオリが付いていましたが、作中では本当に最後の最後まで「魔法少女」という言葉は出てきませんでしたし、そもそもなぜキャロルのことを「魔法少女」と呼んだのかもまったく説明されませんでした。だいたいシンフォギアシステムですらテクノロジーの一種という世界で、わざわざ魔法という概念を持ち出す理由が謎です。 しかしもしこれが、まどか☆マギカ魔法少女を意識したパロディであったとしたら……?世界観とリンクしない形でランダムにパロディをねじこむのはあまり行儀の良い演出ではないですが、シンフォギアでは既にギリギリの線のパロディをやった前例がある(未来がカ・ディンギルについて検索したときのセリフや、一兆度の熱を放つネフィリムなど)ので、今回もその一環だと考えるのは自然ではないかと思います。元をたどればシンフォギアという作品自体がリリカルなのはという魔法少女ものの系譜なので(なのはが昔ながらの正統派魔法少女かという問題はありますが)、3期になってようやく魔法少女という概念に触れるという今更感あふれるパロディを突っ込んできたけど、一周回ってしまい逆に滑らずに済んでる感もシンフォギアっぽいと言われればそれっぽくない……かな?

ただし、まどか☆マギカと違い、シンフォギアではちゃんと救いが用意されています。明言されてはいないですが、思い出を持たせて逃がしたエルフナインはキャロルが間違えていた場合の保険なのだったと思いますし、響はいつものように、キャロルを絶望から救い出そうとします。まどか☆マギカではそのような努力も全て裏切られて結局誰かが犠牲になってしまうのですが、キャロルは記憶こそ失ったものの、イザークの課した命題に答えを出した分身と融合を果たします。キャロルの方が何百年も費やした世界の破壊自体は否定されてしまい、釈然としない感じは残りますが、それでもみんなが笑っていられる希望を提示して終わるのは、いかにもシンフォギアらしいと思います。

……というの、既に301,655,722回くらいは議論されていそうな話題なので、先駆者を知っていたら教えてください。